映画『浜の記憶』を記録する

映画『浜の記憶』がどのように企画・製作・公開されたかを、監督の大嶋拓が綴ります。うたかたの記憶を、とこしえに記録するために…

オーディション1日目。横浜駅から徒歩約5分の雑居ビルの一室にて。台風が接近しているとのことでいささか怪しい空模様。

ちなみに、オーディションは以下のような段取りで行われた。


1.前説
 この作品の概要、主演男優は93歳、少人数現場であること、スケジュールは余裕が欲しい、衣裳は自前でセルフメイク、水着シーンあり、等々
2.参加者からの聞き取り
 経歴(学歴、芸歴)、家族関係(祖父母とのこと)、ヒロイン(由希)の印象、等々
3.読み合わせ
 事前に提示していたシナリオの一部を読んでもらう。繁田役は大嶋が担当
4.フルショット、バストショット、アップショット(正面~横)を撮影(スチール)
5.今後の禁止事項(注意事項)の説明
6.後説
 選考結果は数日中に連絡、お疲れ様でした


こんな流れで一人あたり30~40分(長い場合は1時間くらい)。しかし、人の話をじっくり聞いたり、本読みに付き合ったりするのは思った以上に疲れるもので、今日は台風のせいもあってか欠席者が複数いたのだが、こちらはそれで助かったというところもある。しかしながら、メールでは連絡が取れていたのに、当日いきなり欠席して、しかも何も言ってこないというのは、一体どういう神経なのだろう。冷やかし半分の応募だったとは思いたくないのだが…。このあたりのことはいくら考えてもさっぱりわからない。とにかく、事前連絡がメールだけというのは心もとないので、あさってのオーディション参加者に関しては、全員に内田さんから電話を入れておいてもらうことにする。

本日の収穫は、やはり宮崎勇希さんだろう。彼女は髪を切ってしまったことを非常に申し訳なく感じたらしく、なんと、ウイッグを改造した「付け毛」を付けて現れたのである。

20180904_01

その付け毛は色も質感も地毛となじんで、言われなければそうとわからないくらいのクオリティであった。だから最初に部屋に入って来た時、思わず、「あれ、ブログの写真より長いじゃない。よかった」と安堵の声を上げたくらいである。しかし、パッと見はごまかせても付け毛は付け毛。室内ならともかく、風のある浜辺などで使うのはさすがに厳しい。

20180904_02
 ↑こちらから見て右がつけ毛あり、左がなし。

宮崎さんに関しては、読み合わせをした時のセリフの感じもよく、また、ここ1ヶ月、NG日がほとんどないというのも高ポイントだったのだが、いかんせん髪が短すぎるのが残念。しかし、ほかの参加者が終始改まった、よそゆきの態度をくずさなかったのに比べ、宮崎さんは、オーディション中とは思えぬ、のびやかな表情をいろいろ見せてくれた。以下は、記録用に回していたビデオからのキャプチャである。

20180904_04
20180904_05
20180904_03
20180904_06
20180904_07
20180904_08


夕方、宮崎勇希さんのブログをのぞいてみたら、記事が更新されており、なんと、そこにアップされた写真が、男の子のようなショートヘアになっているではないか! 応募書類の写真(セミロング)とは全然違う。
「これはどうしたことだ!」
と頭が真っ白になり、あわてて本人に電話し事情を聴くと、6日からクランクインする短編作品の役づくりのため、美容師に「おまかせ」してばっさり切ったのだという。まさに腹水盆に帰らず。
「そういうの、わかってたら前持って言ってくださいよ…」
と思わず涙声になる。映画は「見てなんぼ」のものなので、髪型というのは実に大きいのだ。

夜、内田さんに電話をして、明日の確認をするとともに、宮崎さんの髪の件を報告、というか愚痴る。
「あー、フリーの子だとありますよね、そういうの。事務所に入ってる子だと、その辺は事務所がチェックしてるから大丈夫なんですけど」
とのこと。たしかにフリーの子はその自由奔放さが魅力である反面、不安要素も大きい。本人だけとやりとりをしている場合、最悪、本人がトンズラして携帯も着信拒否してしまえば、こちらは完全にお手上げである。撮影途中でそんなことになったら目も当てられない。そうなると、やはり事務所所属の子を選んだ方がいいのだろうか…。悩みは深い(ちなみに今回オーディションに呼んだ候補者は、事務所所属よりもフリーの子の方が多い)。

さらにその後、候補者に伝える禁止事項(注意事項)をまとめたメールが内田さんから来る。
1.髪型を変えない
2.髪を染めない
3.手足のネイル禁止
4.カラコン禁止
5.お酒を大量に飲まない(人によっては脚や顔が浮腫みます)
6.メイクを大きく変えない
7.日焼けをしない
8.つけまつげをしない
9.両親や彼氏が撮影に反対していない
(撮影途中で彼氏に反対されたから、と出演を取りやめたケースがありました)
10.SNSに書き込みをしない

うーん、いちいちごもっともである。

横浜駅周辺の貸し会議室をネットで調べ、駅西口から徒歩5分で、広さも値段も手ごろと思われる場所を発見。4、6日と予約する。

候補者の方たちからメールの返事が来たので、個々の希望に合わせて、4日と6日に振り分け、タイムテーブルを決めていく。現在のところ、4日は7名、6日は5名、計12名となる。

募集は昨晩の深夜0時で締め切ったが、やはり駆け込みでの応募がかなりあり、ヒロインの応募総数は約100人。助監督は10人ちょっと。

助監督に関しては、内田さん以上にアグレッシブな印象を受けた人はいなかったので、彼女にお願いすることに決め、夜、電話でその旨を伝える。彼女も今回の現場に参加できることを喜んでいるようで何より。早速、4日と6日に行うオーディションに、ヘルプとして参加してくれるよう頼む。

一方で、あらためてヒロインの応募データを細かく見返す。あまたいる応募者の中で、昨晩22時57分に送信された、宮崎勇希さんという女性のプロフィールに引きつけられる。オーディションのプロフィール写真というと、妙に取り澄ましたものが多いのだが(今回もほとんどがそうだった)、宮崎さんの写真は明らかに普段着のまま撮った感じだ。身近かな人に向けるような微笑みを浮かべ、ショートパンツから健康的な足が伸びている。都会よりも海や山といった自然との相性がよさそうで、由希が実際にいたらこんな感じかな、と思わせる佇まいだった。趣味は一眼レフカメラだというし、名前も「由希」「勇希」と似ており、身長は152cmで、153cmの加藤さんよりわずかに低いのも好ましい。ただ、こういうのはやはり直接会ってみないとわからないもので、早計な判断は禁物である。

20180901

1日かけて、オーディションにお呼びする候補者を100人から10人ちょっとに絞り込む。そのうちの数人に電話を入れてみるが、「最近の若者は電話に出ない」と世間で言われているとおり、誰も応答しない。「知らない番号にはリアクションせず」というのがデフォルトになっているのだろうか。そんな中、唯一コールバックしてくれたのが、先ほどの宮崎勇希さんだった。応募書類に「お電話は終日柔軟に対応いたします」と書いてあったが、その言葉に嘘はなかったのである。

初めて応募者と電話がつながったという嬉しさもあって、まずそのことを正直に告げ、続いて、「4日と6日の午後にオーディションを行うのでどちらかに来て欲しい」と伝えると、「6日は予定が入っているので4日でお願いします」とのこと。声の感じも明るく、はきはきした対応に好感が持てた。ほかの候補者には、もう電話連絡はあきらめて、一律にメールを送ることにする。

ヒロイン&助監督募集最終日。今日だけでヒロイン30人以上、助監督も思った以上の数の応募がある(23時現在)。

20180831

↑このページのトップヘ