映画『浜の記憶』を記録する

映画『浜の記憶』がどのように企画・製作・公開されたかを、監督の大嶋拓が綴ります。うたかたの記憶を、とこしえに記録するために…

カテゴリ: 企画開発

朝、加藤さんより電話があり、今日、海老網をやるとのこと。急遽、長谷に行くと、すでに漁は終わり、網を干しているところだった。一応、その様子を撮影。

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その後、分配された魚(舌平目とカワハギ)を自宅でさばいているところも撮る(これらの場面は本編では使わず)。

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さばいた魚をいただいて帰り、舌平目はムニエルに、カワハギは煮付けにする。両方とも大変に美味。いやあ、鎌倉の海でこんなお魚が獲れるとは!(由希のセリフ風)

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13時すぎ、新横浜駅改札にて、京都ロケ帰りの渡辺梓さんと会い、駅直結のキュービックプラザ最上階のブラッスリー LA CLASSE(現在は閉店)にて、16時すぎまで打ち合わせ。今回やっていただく、繁田(加藤さん)の娘・智子のキャラクターの掘り下げを中心に。渡辺さんは、
「この役は台本を読むと一見ヒールのようですが、そうではなく、登場する3人の中で一番現実的というか、しっかり地に足がついていて、言動や考え方もごく真っ当だと思います」
とおっしゃったがそのとおり。主人公の繁田は元気とはいえ90歳過ぎ、一方の由希は20歳そこそこで人生経験も浅く、ともに社会というものから遊離している。この2人は言うなれば「浮世離れコンビ」で、だから中盤までのドラマははおとぎ話のように進むのだが、後半、智子の視点が入ることで、作品はおとぎ話から現実を背負ったものに変わるのだ。そこらへんを渡辺さんはきちんと理解してくれているとわかり嬉しかった。

監督特権、というわけではないが、これまで出演した作品の裏話などもいろいろとうかがう。先日の加藤さんとの申し合わせである、連日の猛暑が収まるまで撮影は様子見、ということも伝え、了承を得る。渡辺さんとはこれが初対面で少し緊張したが、思ったよりざっくばらんに会話ができてほっとした。

13時、由比ガ浜の紅茶専門店「香山」にて、加藤さんとともにドライカレーを食べて、ピアノのミニコンサートを聴く。このお店のオーナーの津田宏さんは、加藤さんと同じ「長四郎網」のメンバー。帰りがけ、
「撮影でお店をお借りすることは可能でしょうか?」
とご相談をし、快諾を得る。

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その後、加藤さん宅にて簡単な衣裳合わせと今後の相談。撮影スケジュールに関しては、やはり連日の猛暑が収まるまでは様子を見ることにする。実際、加藤さんは最近、浜辺で作業をしている時に熱中症になり、意識を失いかけて顔から砂地にぶっ倒れたという。シャレにならない話だが、そんな話でも加藤さんはなぜか楽しそうに笑顔で語るのである。

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加藤さん宅前に飾られた漁師風ディスプレイ

珍しく曇りがちで気温も低めだったため、10時すぎに家を出て、稲村ケ崎、極楽寺駅、坂ノ下海浜公園、光則寺などを見て歩く(江の島・鎌倉フリーパスを使って)。

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稲村ケ崎はごつい岩場の向こうに黒々とした砂浜が広がり、荒涼とした感じが漂う。大して離れていないのに、穏やかな長谷の海岸とはすいぶん趣が違うものである。ヒロイン・由希が海を泳ぐカットを高台から俯瞰で撮れないものか、などと考える。

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極楽寺は昔から映画やテレビなどでさんざん使われているので、今さらという感じもするが、やはり大変絵になる。

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加藤さんが昔セリフの練習に励んだという坂ノ下海浜公園は人も少なく、何かで使える感じ。

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光則寺。ここもまた穴場的なスポットで、長谷寺のすぐ近くなのに訪れる人もない。

という感じで、半日鎌倉を満喫。気温が30度以下なら、こうやって楽しむ余裕もできるのだが。

何度かのメールのやりとりの結果、条件(撮影2日、予備日1日)もまとまり、渡辺梓さんが正式に智子役に決定する。
「93歳の現役の役者であり漁師の加藤さんにとても興味があります。娘の智子、彼女を体験してみたいと思いました」
との文面に、こちらも身の引き締まる思い。

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